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【6/12・13 深夜】 夜を駆ける・3 

テルテル坊主の予報どおり綺麗に晴れた、そんな火曜日の夜。


蜜琉はぼんやりしつつもテスト勉強をしていた。
そろそろ寝ようかと椅子から立ち上がって、寝る前にお茶でも飲もうと階下へ向かおうとした瞬間に携帯が着信を知らせる。



誰からだろうと思いながら電話に出る。




電話に出ると、聞きなれた声で


『毎度格別のお引き立て、誠にありがとうございます。
 この度、動力源が少々留守に致しますので、
 しばしの間サービスはご利用できない状態となります。
 日頃のご愛顧に感謝して、今一度無料で一回ご利用いただけますが、
 いかがいたしましょう。』


一瞬考えてから、お願いするわ、と呟いた。

勉強で疲れた頭を休めたかったし。


『承りました。では、また後程』


そう言うと電話は切れた。

部屋着から、服を着替える。
着替えながら、考える。

彼がどういうつもりで接してきてくれているかはわからなかった。
彼が優しい人間だというのを知っているから。

でも、慰めるでもなく、変に気を使うでもなく、ただ蜜琉の望むままに自転車を走らせてくれる彼の気持ちが心地よかった。

だから、少し頼りすぎてしまった。

だから、少し留守にするという言葉に動揺してしまったのだろうか。

取りとめもなく考えながら、また水筒に紅茶を詰めて。
自転車が止まる気配がしたから考えるのを止めて外にでる。


「お待たせ致しました。どうぞ」


そう、促されて何時ものように後ろ向きに腰掛ける。
何も言わずに自転車が動き出す。

ゆっくりと、景色が流れ出す。
夜の空気が、好き。
夜の静けさの中をいくこの瞬間が、好き。

暖かい背中が、誰にも見せれない、見せたくない自分に優しい。
背中を向けているから、どんな顔をしていてもわからない。

でも、不意に思ってしまった。
相手の顔も、見えない事に。

なんでだかわからない、不安?そんなものに突き動かされて、初めて蜜琉は景色が流れていく中で話しかけた。


「サウンドオプションも、あったんだっけ?」

何か、聞きたい。
あたしは何も聞かれたくなくて、話しかける事をしなかったのかもしれない。


「・・・各種取り揃えておりますが。九九傑作選、般若心経・ラップバージョン、円周率朗読、とっさの読経、何がなくともライオンに勝つ方法―――今日のオススメはせめてザリガニに勝つ方法…」

全部聞いてみたかったけど、今聞きたいのはそんな話じゃないの。


「あなたのはなしをして」


何故か聞かなきゃいけない気がして、そう答えた。
少しの躊躇いの後。

「・・・どんな話?」

「かわいいはなし」


どんな話でも、よかった。
でも、何故だろう?かわいいはなしをねだったのは。

幸せな気持ちになりたかったのかもしれない、自分でもわからない。




散々迷った挙句、でてきたかわいいはなし。


魔法使いになりたかった話。


あは、と笑ってそれでお願い、とねだる。

聞いているうちに、心が和んでしまうようなかわいい話でくすくすと笑ってしまう。
揺れて、触れる。


聞いているうちに、思う。
彼も、大事な誰かのお星様になりたかったのかもしれないと。

背中があったかい。
おはなしが終わる頃に、ぽつりと口を開く。


「あたし、ひとつだけ魔法を知ってるのよぅ?寝る前に、右足の踵を三回鳴らすと好きな人が夢の中に来てくれるんですって」


へぇ、と笑う声が聞こえる。

「でも、試した事はないの。だって、誰も来てくれなかったら寂しいじゃない?だから、使ったことはないのよ」

そう言ってもたれかかるように背中を預けて手を空に伸ばす。


星には届かないのに。


カフェに戻ってくる道の中、少しだけ胸が苦しくなったような気がした。



自転車から降りて、ありがとうとおやすみを告げて見送ろうとした、その時。


「ミツル、」


名前を、初めて呼ばれて吃驚する。
いつもは、店長って呼ぶのに。


「…無茶、しないでねェ」


ドキっとした、見透かされたみたいで。


「…危ねェことしないでね」

どうしてだろう?一瞬全て打ち明けてしまいたくなったのは。
でも、綺麗に隠してしまった。

綺麗に、キレイに、きれいに。


「良将ちゃんも、怪我しないようにねぇ?」

月が雲で隠れてくれて、よかった。
彼の顔が見えない。
あたしの顔も、見えないだろう。


「いってらっしゃい、気をつけてねぇ?」


隠したまま、笑う。
自分でも何を隠しているのかわからない。


一度だけ振り返った彼に、もう一度手を振って。

屋根裏部屋に戻って、部屋の明かりを消してベッドに倒れこむ。
手を伸ばして、何かを掴もうとして、眠りに落ちる。



夢の中の女の子は、座り込んだまま何かを探してる。

泣きそうな顔
       して るの
                どうして 

                        … ?





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