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【6/20・21 夜】 after the rain ...  

やまない、雨


アザレア国際交流センター、鎌倉からもそんなに遠くは無く電車で一時間もあればなんとかなる距離だ。

誰もいない事を確認する、誰にも邪魔はさせない。
でなきゃ、笑えない。

強い意志を感じさせる声で低く呟く。


「・・・イグニッション」


待ちきれないと言った様に走り出す。




道は完璧に覚えている、間違う事もない。
順番に巡っていく、センターの中、地下。


そして通称B棟と呼ばれている、蜜琉のお気に入りの場所だ。


何時もと同じ、ここまで何事もなく進んできた。
ゴーストを倒して、倒して、倒して。

時計は22時40分。

アビリティの残りは思ったより少なかったけど、大丈夫。
木乃香ちゃんに見られる前は、一人で、独りで何度だって来た場所だもの。

躊躇うことなく足を踏み入れる。

何時もと同じ、変わらない。
仕掛けを踏破して前に進む。

口元を歪ませながら敵を潰す、一欠けらの躊躇も無く。

夢の中の少女が泣いている。

口元を歪ませながら敵を倒す、一欠けらの慈悲も無く。

夢の中の少女が泣いている。


雨は止まない、どしゃぶりのまま。


そしてB棟の支配者と呼ばれているブルーナイトが現れる階まで歩みを進めた。

ブラストヴォイスは後二回、白燐奏甲は今使って0。
あたしは、大丈夫。

前へ、進む。

ほどなくして異様な空気に包まれる、奴らのお出ましだ。


奥にはブルーナイト、それより手前にはリビングデットや自縛霊、妖獣といったゴーストのオンパレード。
口元を歪ませて一瞬の躊躇も見せずに躍り出る。

玲瓏たる歌声。

詠唱兵器によって増幅され衝撃波となった音はゴーストにぶつかり多大なダメージを与えてゆく。
何匹かはそれで消える、もう一度。
立て続けにブラストヴォイスを撃ち放つ、残ったのはブルーナイトと鎧讐少女、数匹のゾンビ。

楽勝、口元が歪む。

歪めたまま敵に向かって走る、何度かの攻防。
横から繰り出された鎧袖少女の強打を避ける、ほんの一瞬体勢が崩れたのをブルーナイトが見逃さずに突き飛ばし攻撃をしかけてくる。

何時もなら避けれた攻撃。

強打を避ける時に軽く足首を痛めたのが命取り、気が付けば体は壁に吹っ飛ばされていた。


「・・・っ」

壁に叩きつけられた背中が軋む。

それでも必死に体勢を整える為に立ち上がろうと力を入れたその時、足首が激痛を訴える。


立ち上がれない。


夢の中の少女のように座り込んだまま、獲物を追い詰めるかのようにゆっくりとゴーストが自分に向かってくるのを見ているしかできない。

まるで映画でも見ているかのようだ、と口元が歪む。

死を覚悟する瞬間ってこういうものなのだろうかと、ぼんやりした頭で考える。

もう、痛くて動けない。
一人で、独りで、大丈夫、だったのに。

俯きかけた瞬間、怒号が響く。
自分とゴーストとの間に、誰かが躍り出る。
誰なのかわからなかった、こんな人、あたしは知らない。
わかっているのに頭が付いてこない。
何時も見る雰囲気と違うから。
どうしてここにいるのか理解ができないから。

咆哮を上げながら、彼がゴーストを潰していくのをただぼんやりと見ていた。

目の前で駆逐されていくゴースト。
あたしは座り込んだまま身動きひとつ、瞬きひとつできずに見つめていた。

どうして、ここにいるんだろう?

それだけがぐるぐると頭を回っていた。
それから、見た事のない表情と見た事のない戦い方に見入っていたのかもしれない。

最後の一体、ブルーナイトを叩き潰して。彼が肩で息をしながらこちらに歩いてくるのを、ただ見ているしかできなかった。

ゆっくりと、が近づいてくるのをただ見上げるばかりで。



「…何してンの、アンタ」

彼が口を開く。
あたしは呆然として何も言えない。

「こんな時間に、こんなトコで、一人で!! 何やってンだよ!」

彼が口を開く。
あたしは頭がパンクしたみたいに何も言えない。

「オレ言ったよなァ、危ない真似すんなって! 
 GT行くときだって、誰か連れてけって、一人で行くなって、何回も!!」

彼が口を開く。
あたしは回らない頭で自分でも何故かと理由を考える。

「アンタが強いのは知ってるさ、
 でも殺し合いに絶対なんてねェ、知ってんだろ!!
 何だかんだで数が多いほうが強ェ、
 舐めた奴からどんどん死んでくんだ、
 取り返しの付かねェことは本当に取り返しがつかねェんだよ、
 
 ―――なのにアンタ何してんの、
 黙ってねェで答えろよ、なあ!」


彼が口を開く。
あたしは・・・・・・


「わ、」


「・・・わらえなかった、から・・・上手に笑えなかったから」

自分でも驚くくらい、幼い子どもみたいな声。

瞬間、轟音を立てて崩れる瓦礫。江間の振るったハンマーが粉塵を上げているのが見える。
今まで、蜜琉が知ってる彼からは想像もできないくらいの怒気を孕んだ声で叫ぶ。

「っざけんな!!」


「笑えないって、ンだよそれ!!
 理由になってねェ、アンタのコレは自殺行為!!
 マジ笑えねェ、冗談じゃねェよ、ふざッけんなよ!」

「だ・・・だって!!」

隠し切れない、ぽろぽろと言葉がこぼれだす。


「笑えなかったら心配するじゃない! みんな、心配するじゃない! そんなの駄目だもの、あたし、ちゃんとしてなきゃ、笑ってなきゃ駄目なんだもの!!」

「心配するって…そりゃ心配するだろうさ皆!!つうかソレを全無視で一人で死にかけるほうが、よっぽど胸糞悪イ!」

「だって、あ、あたし、一人でも平気じゃなきゃ駄目なんだもの!」

「―――は!?」

向き合って吐き出される言葉にずっと隠して、自分にすら隠してきた言葉を吐き出してゆく。

「ちょ…ちょっと待って、つーかそんな、一人で平気じゃなきゃ駄目って、…なんで?」

「背中を、守る人がいないから。それなら、一人で強くならなきゃだめでしょう?」

きょとんとしたような顔をしながら、それでも言葉を紡ごうとする彼を見つめる。

「うん。よし。…わーった。一回整理しよ」

溜息混じりに困ったように笑われて。

「えっとさ、店長は、今多分しんどいんだと思うんだけど。
 何でそうなってるのか、自分で理由分かる?」

閉ざしてた言葉が止まらなくなる、駄目だ、こんなのは駄目、わかっているのにどうして。言葉が止まらない。


「守るって、言ってくれたの。嬉しくて、でも・・・背中、守ってくれる人いなくなって。あたしが、手放したのにそれじゃだめじゃないって。」

繋がらない言葉を黙って聞いてくれる、それがもうひとつ後押しをする。

「誰もいないなら、じゃあ自分で守るしか、ないでしょう?一人で、独りで強くなれば、平気になれば!!そしたら、ちゃんと笑えるじゃない・・・」


唇を笑うように歪ませる。GTを一人で駆けている時に浮かべていた表情だ。

軽く頬を掻いて江間が言う。

「…それさァ、寂しいんだよ」

寂しい?そんなの知らない、知らないのにどうして。

「てゆうかさ! 平気じゃないじゃん全然。今。現に! 
 平気じゃないって認めちゃったほうがさ、楽ちんだとオレは思うわけでッ!」

ジャリっと、もう一歩。すぐそばでしゃがみこんで、息を吸う音。

「泣きそうな顔してさー・・・ボロボロじゃん」

そう言って少し困ったように、あやすように笑って目を覗き込まれた瞬間に、ずっと塞き止めていた何かが崩れたような気がした。

視界が歪んで目が熱い、目の前の全てがぼやけていく。
ぽたぽたと、膝が濡れる感触。

ぼやけた視界に映る穏やかな顔に、自分が年上でとか、先輩でとか、そういうのは全部どっかに吹き飛んで。

気がついたら――――


子どもみたいにしがみついて。
子どもみたいに泣いて。
子どもみたいに・・・。

「だって・・・っこうやって、泣いたら、泣かれたら、困るじゃないのよぅ・・・!今だって・・・っこまっ困ってるでしょ・・・っ!」

駄々を捏ねる子どもみたいに。
数瞬の後、あやすように軽く片腕で抱きしめられ、ぽんぽんと背中を優しく叩かれて。
暖かさにまたひとつ枷が外れるように泣きじゃくる。

迷子の子どもが、やっと出口を見つけたように。




雨が、やっとやんだような気がした。
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