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【6/15】 テレイドスコープ 

雨が、パラパラと降っている。



帰り道、少しだけ寄り道をしたくなって道を外れる。

雑貨を軽く見ながらショーウィンドウに映った自分を見る。
少し無表情な顔、一瞬自分でも誰だろうと思ってしまった。


いけない、こんなんじゃダメ。

そう思ってショーウィンドウに映る自分に笑いかける。

うん、大丈夫。あたしはまだちゃんと笑えてる。
安堵して、ショーウィンドウを離れると。






見たことある、というか街中でもあまり騒ぎ立てられることもなくなったくらいには認知されているであろう少年を見つける。

着ぐるみをこよなく愛し、着ぐるみが愛情の対象と言ってはばからない少年。

百千万億・奏である。
何故騒ぎ立てられるのかと言うと彼が常に着ぐるみを着ているからである。

ちなみに、今日はくま。

「何か欲しいのでもあったんですか?すっごい熱心に見てましたよ!」

そう、声を掛けられて安堵する。ショーウィンドウに映った顔を見られてないと安堵する。

「え、うん!綺麗だなぁって」

振り返って、本当に見てた物を指差す。

綺麗な細工の万華鏡、奏が近寄って覗き込む。着ぐるみがショーウィンドウに当たって見辛そうだったけれど。


「ほんとですね!玖凪さんに似合いそうな綺麗な万華鏡です」

うんうんと頷いて、奏が笑う。…着ぐるみのほんの少しの隙間から見えただけだけれども。

ショーウィンドウからすっと離れて、奏に向き合って。

「ありがと、あたしそろそろカフェの方に行くわねぇ!」

「はい、いってらっしゃいです!引き止めてごめんなさい」


ううん、と首を振ってからまたねと手を振って別れる。

ほんとはもう少し一緒に居たかったけど、久しぶりだったし。
ただ、あの着ぐるみの少年は聡いのだ。ぽやーんとしているようで、人の気持ちに敏感なのを知ってるから今の自分では隠しとおせる気がしないのだ。

だから、同じような理由でバカがいる結社にも顔を出していない。
あたしに関するバカの嗅覚は並じゃない、だから行かない。


頭を軽く振って、カフェに入って何時ものように仕事をする。
カフェの仕事は好き、皆と一緒にいる時間も好き。

笑顔も、ちゃんとできるから。


カフェを閉めて、一人になって 溜息がひとつ。


外から、カタンっと音がしたのでエプロンを外して鍵を閉めがてら覗きに行く。

外はもう暗く、人影もない。玄関先に箱がひとつ、それと手紙。
前にもあったわねぇ、とか思い出しながらも拾い上げて部屋に戻る。

手紙を開くと、英語が並んでいた。

「・・・訳すの!?」

軽いつっこみを入れつつも辞書を片手にたどたどしいながらも訳を紡ぎだす。

一通り訳し終わって、顔を上げる。それから、箱を開けて中を確認する。


中には、夕方ショーウィンドウから眺めていた万華鏡。それと金平糖のお菓子。

送り主はもちろん、着ぐるみの彼だ。
手紙の内容を思い出しながら万華鏡を覗き込む。

テレイドスコープ、いつもの景色が違って見える。
つまらない部屋の中も、全てが美しいものに変わる。


きっと、貴女の名前を呼んでくれる人がいるから


胸が苦しくなる錯覚に捕らわれる。
一人で苦しむなと言う、助けてくれる人はいると、そう言われているのだろう。


『…無茶しないでねェ』

『…危ねェことしないでね』



そう言ってくれた彼の、少しだけ辛そうな顔を思い出す。


隠し切れなくなってきている、と思った。
自分でもわかっている、こんな不安定な自分はおかしいのだと。
何人かは気がついて、手を差し伸べてくれて。
でもあたしはその手を受け入れたようなフリをして拒絶して。


一人で、独りで、大丈夫にならなきゃだめだから。


どうしたら、夢の中の少女は泣き止んでくれるのだろう?


テレイドスコープをもう一度覗き込む。

綺麗だけれど複雑な模様、優しい人たちを思い出しながらうとうと眠りにつく。



夢の中の少女は、何を探しているの?


           泣きながら
                          何かを




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