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夜を駆ける 4 

屋根裏部屋、蜜琉が寝場所とする部屋。
その部屋に置かれたベッドに寝転んで蜜琉は考えていた。

――――竜宮城作戦、ふと四月の土蜘蛛戦争を思い出していた。

たくさんの仲間が傷ついて、何人かが死んでいった戦争。寝返りを打ちながら硬く目をつぶって頭を振る。息が、少しだけ詰まる。待っている間、心配だけが募ってゆく感覚。
今度こそ、最後まで戦い抜けるだろうか。常日頃の蜜琉からは想像も出来ないほど真剣な表情をしている。
誰も死なないで欲しい、あの時背中を預けた彼も、誰一人。誰か、彼と共に駆ける人がいればいい、と蜜琉は思う。
彼の事を考えても胸は苦しくならなくなったし、ただ心配に思うだけになったけれど大事な友人の一人だから。
結社の友人、友好先の友人、ふとしたきっかけから知り合って仲良くしてきた友人。その全ての人を守る事などできないのはよくわかっている。
けれど、だからこそ。
その大事な人たちの隣に立って戦う人がいればいいと蜜琉は思う。 祈りにも似たような思いではあったけれど、願わずにはいられないのだ。

――――不意に枕元で携帯が鳴る。
慌てて顔を上げ、携帯を手にとって受話ボタンを押した。

「こんばんはッ!店長、今ッて時間ある?」

「こんばんは、あるわよぅ。どうしたの?」

「今から会えないかなッて!」

「いいわよぅ!久しぶりの夜の散歩ねぇ!今からだと30分後くらいかしら?えぇ、じゃあ待ってるわねぇ」

電話を切って少しだけ携帯を見つめてから出かける準備をする為に立ち上がる。久しぶりの夜の散歩、あの日以来行っていない夜の散歩。
クローゼットを開けて涼しげなチュニックに袖を通し、ショートパンツに足を通す。鏡台の前に立ち、ネックレスを掛けておくスタンドから大振りな、見るからに安物で子どもが喜びそうなネックレスを手に取って首にかけた。不思議と蜜琉によく似合っている、江間から先日の盆踊りのお祭りの帰りにもらったものだ。
髪の毛をアップにまとめ、お気に入りの鞄に携帯と財布を入れ、階段を駆け下りてカフェのキッチンに向かう。細身の水筒に冷蔵庫から出したレモネードを入れ鞄に詰めたところで携帯がワンコール鳴って切れた。
銀色の自転車がカフェに着いた合図。玄関に出ると自転車に乗ったまま手を振る江間の姿が見えた。

「お待たせ!」

「こんばんはッ!さー乗って乗ってー・・・ネックレス!付けてくれてンの!?」

「うふふ、似合うでしょう?」

悪戯っぽく笑いながらネックレスを揺らす蜜琉に、嬉しそうに江間が笑う。
乗って乗ってと促されて後部座席に回り、ふと思いついてこう口にした。

「ねぇ!後ろに立ち乗りしてもいーい?」

「いーよッ!足かけるのついてっからそれに乗ってねェ」

江間が自転車に乗ってペダルに足を掛けながら指で後ろを指さす。
江間の肩を軽く掴んで、ステッパーに足を掛けて乗るとゆっくりと自転車が動き出した。
六月と違って八月の空気はねっとりと肌にまとわり付いてくるけれど、自転車に乗って受ける風は少し違っていて心地よい。

目的地は一番最初に来た高台にある公園。坂道に差し掛かったところで蜜琉が笑いながら、

「また途中で休憩いれましょっかー?」

「ダイジョーブッ!!気合ーーーッ!!!」

その言葉の通り、坂道を登りきって公園に到着する。ゼェゼェと息を切らしている江間に水筒のコップを差し出して水分補給を促した。

「あー、これカフェのだよねェ。おいしくて好きなんだよねッ!」

飲み干したコップを受け取って蜜琉も少しだけ飲む。レモンの爽やかな酸味とハチミツの甘さが丁度よく、夏にピッタリな飲み物だ。
飲み干して、空を仰ぐ。綺麗な星空が広がっている、地上を見れば街の灯りが広がっている。そしてその先には――

――海が。

黙ったまま海を見ている蜜琉に江間が声をかける。

「・・・何考えてンのか当ててみせよッか!」

「なぁに?言ってみて」

くすくす笑いながら蜜琉が伸びをする。

「明日の事ッ!骸が泳ぎの練習の成果を発揮できるかとかそういうのッ!」

「うふふ、当たり!・・・明日の事、ちょっと考えてたの。電話くれる前も考えてたわ」

そう言って笑う蜜琉の横顔が少し怯えたように見えたのは気のせいだっただろうか。

「・・・怖い?」

軽く問いかけられた言葉に、

「・・・怖いわ」

噤みかけた唇を開いて、そう素直に答える。

土蜘蛛の時の事、重傷を負ってただ待っているだけで何もできずにいた事。誰かの泣き声。戦場を駆け巡る伝令や訃報を伝える声。祈るしかできずにいた事の全てが怖かったと。今回も知人の誰かが、と考えたら身が竦みそうになる事。
今までに、誰にも言った事のない思いを全て。

「でも、結局何もしないまま後悔なんてしたくないから行くのよねぇ!」

「・・・そっか」

何時もの笑顔で笑いながら空を仰いだ蜜琉を、横目で見ながら江間が答える。その表情は何時もより大人びていたけれど蜜琉は気が付かないまま、空を仰いでいた。

帰り道、坂道の手前。さすがに下りで立ったままでは危ないからと普通に座って江間の腰に手を回す。

「しっかりつかまったー!?」

「大丈夫よぅ!ちゃんと落ちないようにつかまってるから!自転車で坂道下りるのってすっごくドキドキしない?」

「ン、ちゃんとつかまっててねェ!オレはいつでもドキドキしてるけどッ!!」

そう言って、回された腕に少しだけくすぐったそうにしながら江間が坂道を駆け下りる時の風圧から目を守ろうとゴーグルをかける。

「それいいわよねぇ、カッコイイし便利そうで」

「オレ、ちょっと光に弱いから何個か持ってんだよねェ」

そう言いながらゆっくりと自転車が坂道を下りだす。流れていく風景、後ろ向きの時とは感じ方も違っていて蜜琉はまた楽しそうに笑う。

「あー楽しかったぁ!坂道とかって子どもの時すごくワクワクしたりしたのよね、自転車で下りるの」
「あー・・・緊張したー・・・! 店長のせてるときってすごく緊張すンだよね、いろいろと!」 

同時にそう言って、お互いが笑い出す。それからまた、他愛無い話をしながら自転車が進む。
楽しい時間はあっという間の事で何時の間にか自転車はカフェ前に到着していた。

「はいッ到着ー!」

「お疲れ様、ありがとねぇ」

そう言って、自転車の籠から鞄を取り出してドアの前に立つ。少し強い風に蜜琉が髪を押さえる。

「あ、そうだ店長」

髪を押さえる仕草で思い出したかのように江間が掛けていたゴーグルを外して蜜琉に差し出す。

「コレ、あげるッ!」

「いいの?大事な物じゃないの?」

差し出されたオレンジ色のゴーグルを受け取りながら蜜琉が問う。

「そんな大事なモンじゃねェから!それに他のゴーグルもいくつか持ってるしッ!・・・お守りって訳にはいかねェだろうけど、持ってて」

ふっと、真剣な表情で江間が蜜琉を見る。

「ありがと、首に下げてくわねぇ!」

大事そうに鞄に入れて、その代わりにとレモネードの残りが半分ほど入った水筒を出して自転車の籠に入れる。

「じゃあ、良将ちゃんはその水筒を月曜に返す事!ね?」

暗に、無事に戻ってきて返してと、そう目で伝える。明日返すのではなく、月曜にと。

「・・・うん、了解ッ!じゃあ明日ねェ!」

「おやすみなさい、また明日!」

手を振って見送る、見えなくなるまで。それからドアを開けて部屋に戻り、シャワーを浴びて明日の準備をし始める。
大き目の鞄に一応タオルを数枚と水着、必要そうな物を入れる。少しだけ大きいオレンジのゴーグルを一番上に入れてチャックを閉めてベッドに潜り込む。

少しだけ、気持ちが晴れている事に気が付いて驚く。何時もそうだ、不思議と蜜琉が迷っている時や弱っている時に何気なく隣に江間がいる。
どうしてだろう、と考える内に少しずつ意識が遠のく。酷く、鈍感になっている。それに気が付かないまま、まどろみの中に落ちていった。
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