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ただいまと、おかえりと。 

こないだ行って来た依頼の話なんだけどねぇ。

お帰りなさいって言う為にずーっと待ってた地縛霊のお話。

お帰りなさいを言いたくて

あたしは哀しい気持ちのまま死んだゴーストや、自分がなりえるかもしれない存在に感情移入しがちなんだと思うのよねぇ。
倒すべき存在なのはわかってるし、ちゃんと倒すわ。でも、その後少し、少しだけ心が落ち着かなくなるのはどうしようもない事で――――。
帰り道、お腹の空くようないい匂いを感じながら携帯を耳に当てる。コール音が三回鳴って、四回目のコールを鳴らし始めた頃に電話相手の声が聞こえた。

「もしもし?」

蜜琉はなるべく平気そうな声を、何時もと変わらないようにと話だす。

「うん、そう。今帰ってるとこよぅー」

相手の少し低くて柔らかい声が気持ちいい。夜風が頬を撫でてゆく、涼しくて心がまた少し落ち着かなくなる。

「・・・ううん、何にもないわよぅ?怪我もしてないし、誰も怪我しなかったし」

気遣う声に、うふふと笑って答える。

「うん、ん?えっとねぇ、後一時間ちょっとくらいかしらねぇ。うん、そう。もうちょっとしたら電車乗るから・・・」

駅までもう少し、その間、もうちょっと。『ただいま』を言うのはまだ少し早く、言葉にする事はできず。

「そうね、それじゃ、電話切るわねぇ」

駅が見える、電車は程なくして来るだろう。

「うん、うん・・・じゃあね」

耳から携帯を離して通話を切る。駅のホームに着くと、人が掃き出されるように電車から降りてくるのが見えた。入れ替わるようにその電車に乗り込む。
混みあう車内に滑り込むとドアの傍に立つ。ガラス一枚隔てた景色を見ながら発車ベルを聞く。緩やかに景色が動いていく、街はもう夕暮れ時を越えて小さな灯火がいくつも輝いていた。
あの一つ一つの灯りの数だけ、誰かが帰ってくる人を待っているのだろうか。そんな取り止めのない思いが巡る。
感傷に浸るのは、被害者に失礼だとも思う。軽く手のひらを見て、溜め息をひとつ吐いてもう一度外を見た。
街の灯りと、空の星が綺麗でまた少し落ち着かなくなる。

あたしはどうして、迷わずに電話を掛けたんだろう。どうして、気がつけば何時も傍にいてくれるんだろう。あたしは、どうしたいのか、どう思って――――

ぐるぐると、思考が回ってぴたりと止まる。顔を上げると、降りる駅。ほっとして、電車を降りる。どうして、ほっとしたのか。――なくせに。
疑問に思う気持ちを心の底に押し込めて改札を抜けてカフェへと向かう。気がつくのが、怖いから。
カフェへ続く道をゆっくりと歩きながら、星を見上げて小さく口ずさむ。

風の吹く音 夜空の星座
  そういうものには勝てない
ただ少しだけ君のこととか
  思い浮かべて眠った


もう少しでカフェの前、口ずさんだまま入り口のドアに目を向ける――――

ドアに背をあずけてこっちを見ている人影があった。顔はわからなかったけれど、腕に鈍く光るバングルが誰かを教えてくれる。

「おかえンなさい」

どうして、何時も、何時も。欲しい言葉をくれるんだろう。

「・・・ただいま」

やっぱり魔法使いみたいだと言ったら、照れるだろうかと思いながら蜜琉は声の主に笑いかけた。
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