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orange and shell pink rouge 

それは、初めて見る表情だった。
普段見たことのない表情、知らない人を見るような―――



まだ日も高く、秋から徐々に冬へ向かおうとする校舎をゆっくりと歩いていた。今日は運動会後の片付けだとかで早く終わったのだ。制服も半袖から長袖に衣替え、この制服を着るのも半年くらいなのよねと呟いて廊下を曲がる。
と、その先には見慣れた二人がいた。

「あら、菫ちゃんに骸ちゃん!今から帰るところー?」

「あ、蜜琉さん!丁度いいところに来ましたネ!」

紙袋を被った長身の男と、ぱっと見テルテル坊主に見える低身長の女の子という組み合わせ。鬼頭・菫と吊下・骸である。

「なぁに?楽しそうな話かしら!」

「GTへのお誘いですヨ!蜜琉さんもお誘いしようと思ってたんです」

「アミーゴに行こうかって誘われたとこっ!」

丁度時間もあるし、何より素敵なお誘いを断る手はない。ほぼ即答で行くと答えて蜜琉が笑う。

「じゃあ、あたし制服だけ着替えたいから駅で待ち合わせでいいかしらー?」

「いいよっ!菫ちゃんはこのまま行けるし!」

「僕もこのまま行くので駅で待ってますネ!」

決まれば話は早い、早足でカフェまで歩き部屋で着替えをすまして財布とIGCと携帯を鞄に入れて駅へ向かう。
アミーゴはそんなに遠くない距離にあるGTで、30分もあれば着く距離なので他愛もない話をしている内に到着する。





「ほんとにわんさかリビングデッドでるわよねぇ、ここ」

「いい加減うっとうしいくらいだねっ!」

「鍛え甲斐があるってものですヨー!」

三人でもどうにかなるもので、特に困った事態にもならず順調に歩を進めていた。そしてエスカレーターを登ったその先に、よく知った顔、江間・良将と少しだけ話した事のある顔、亘理・計都が口紅を片手にじゃれあっていた。話した事があると言っても、GTで少し喋った程度ではあるが。

「あいヤ、どうしましょうカ?」

「何だか面白そうじゃない?少し見てましょうか!」

「まあ、菫ちゃんは別に構わないけれどっ!」

好奇心と、普段見れないであろう光景に蜜琉はそう提案した。気付かれない様にそっと腰を下ろしてじゃれあう姿を見る、じゃれあうと言うよりはこれは模擬戦なのだろう。おそらく、口紅をナイフか何かに見立てての立ち回り。
動き方がとても綺麗でつい見入ってしまう。蜜琉も武術は身に付けているが、護身の域を出る物かと問われれば微妙なところだ。相手の動きに合わせ力み過ぎることなく流れるように捌く、合気道。それが蜜琉が10歳の頃から習い親しんできたたったひとつの武術だ。
目の前で行われているのは、それとはまた違う・・・人を殺す為の動きだ。

見た事のない表情に、六月の事を思い出す。
無茶してGTで倒れそうになった自分を助けてくれた人。
魔法使いのようだと言ったら照れた人。
気が付いたらそばにいる人。
時々、近くにいるのに遠くにいるような感じがする人。
でも、今目の前で真剣な顔で戦っている彼は知らない顔だ。知らない事ばっかりじゃないのかと、唐突に思う。何も知らないけれど、助けになることはできるのだろうか?あの時助けられたように。
そんなとりとめもない事を思いながらも、目は離せない、少し怖いけれど綺麗な動きを目で追う。
拮抗していた戦いを崩したのは良将だった、右から左へのシフトで見事に相手の喉に紅い線を走らせる。

終了の合図だ。張り詰めていた空気が和らぐ、勝利を喜ぶ声と顔は何時もの見知った顔だ。それに少し安堵して骸を見ると目が合った。同じような気持ちだったのだろうか、そう思いながらもう一度前を見ると。

「うッわ、何でいンの!!」

やっと気が付いたのか良将がこちらを見て叫んでいた。微笑んで、手のひらをひらひらと振ってそれに応える。その後、何で黙って見てンの!と怒られるのだが。


まだ、何も知らないまま、何も気が付かないまま。
気が付かない振りをしたまま。
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