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【3】Beautiful World 

自分が好きじゃないの
何が欲しいか
わからなくて
ただ欲しがって
ぬるい涙が頬を伝う



駅の改札口を抜けて、教えられたとおりに道を進む。
わかりやすい道で、迷う事はなかった。
歩きながら、ずっと泣きそうになる自分を堪えていた。
無性に寂しくて悲しい。
どうしてそう思うのかはまだわからない、まだ知らないまま。
ただ、酷く哀しい。
外壁が黒いアパートが目の前に見えた。教えてもらったとおりの外観で、ここで間違いないと蜜琉は建物の中に足を進めた。
どこが燦然世界の部屋かわからなかったので、管理人室の扉を軽く叩く。

「はい、何か御用・・・御用ですか?」

少しして、眼鏡をかけた穏やかな風貌をした痩身の男が出てきてそう蜜琉に声を掛けた。
少し躊躇ったのは蜜琉の目が赤く、明らかに泣いた後だったからだろう。少しだけ掠れた声で、言われた通りにお願いをする。

「岩崎燦然世界に、玖凪が来たって言ってもらえるかしら?」

「あぁ、岩崎さんね。少し待ってて」

中に引っ込んで少しすると、ロビーに燦然世界の姿が見えた。

「なんだ、どうした蜜琉!なんだその顔は!!」

やっぱり、酷い顔をしているのだろうか。燦然世界が少しだけ慌てたような顔になって、それが段々ぼやけていく。

「世界ちゃん・・・あのね、あたしね・・・」

「岩崎さん、女の人を泣かさないでください」

「アホかっ!管理人アホかっ!もう一回言うぞ、管理人アホだ!!!まぁいい、礼を言う。後、この事誰にも言うなよ?行くぞ、蜜琉」

ぐすぐすと鼻を鳴らして泣きじゃくりそうになる蜜琉の手を引っ張って燦然世界がエレベーターに乗り込んだ。
三階で降りて、一番端の部屋を開けて中に入るように促す。

「すまん、ハンカチないからこれ使ってくれ」

そう差し出された白いタオルを顔に当てる。小さいテーブルの両側に座布団を敷いて、座るように言われて大人しく座った。
温かいお茶を淹れて、ポテトチップスの袋をバリっと開けて、どっかりと座り込む。

「で、何があった。お前さんが泣くなんざ初めて見たぞ」

心底、驚いたような顔でうっすらと赤く腫れている蜜琉の目元を覗き込む。
タオルで顔の半分を覆ったまま、ぽつりぽつりと話だす。
オレンジ色の、どこか知らない寂しい男の人に見えた彼の事。
自分と誰かを重ねて、優しく触れられた事。
近いのに、一番遠い距離だと思った事。
ただただ、悲しくて哀しかった事。

全部吐き出して、少しぬるくなってしまったお茶を一口啜る。優しい温かさが体に広がって、また少し泣きそうになる。
それまで黙って聞いていた燦然世界が顎先に手を当てて口を開く。

「お前さんは、太陽みたいなもんだからな」

その言葉に、きょとんとして蜜琉が聞き返す。

「あぁ、掛け値なしの太陽だ。側にいれば暖かくて心が温まる。だがその分、太陽の強い光が眩しいと思う者もいる、太陽の光の強さに影が濃くなる者もいるだろう」

そう言って、お茶を一口ずずずっと啜る。

「それでも、その光に惹かれるのだ。例えばだ、お前さんがうちに来てまず思った事があったんだがな?お前さんみたいに掛け値なしで明るい者は茜とは合わんと思ってたのだ」

ポテトチップスを一枚摘まんでバリバリと噛み砕いて飲み込む。

「だが、茜はお前さんになんでか懐いておる。これはどういう事だと思う?あの頑なな娘が心を開いておるのはお前さんが本当にあったかいからだ。例え、自分の影が濃くなろうとも焦がれてやまず、憧れる光だからだ」

そしてふっと視線を下げた。

「劣等感と羨望と妬みと疎外感、そんなものを感じて距離を置こうとした娘がお前さんを案じて懐いて笑うのだ、これは掛け値なしのお前さんの強さだ」

まぁ、お前さんが菫ちゃんと仲良くなったからそれも関係してたんだろうがな!わはは!と笑う燦然世界に少しだけ笑って応える。

「だいたい、この学園にいる能力者の大半は後ろ暗い過去ってものがある。どう考えても映画か漫画か小説かって過去を真実過ごしてきた者ばかりだ。けれど、お前さんはそうではなかろう?温かい家庭で、愛情を注がれて育ったんじゃないのか?まぁ私の想像にすぎんが。」

確かに、蜜琉は裕福な家庭で何一つ不自由もなく愛されて育ってきた娘だ。歪む事無く真っ直ぐに育った自由な蝶だ、燦然世界の言う事は間違ってはいない。

「だから、そんなお前さんに惹かれ焦がれる者もいれば反発する者もいる。まぁ、人間関係なんてのはそんなもんだがな。」

立ち上がって、お茶のおかわりを淹れる。

「だがな、お前さんは無意識かもしれんが相手が触れられたくない場所ってモノを知ってるだろう?そこに立ち入らず、踏み込まず、かと言って突き放す距離じゃなく、絶妙な立ち位置で接するがゆえに交友の幅も広い・・・と私は今まで思っていたのだ」

すっと、蜜琉を緑色の綺麗な目が射抜くように見つめる。

「今回のお前さん、その位置を越えてみたのではないのか?何故越えようと思ったのだ?」

それから、と一拍おいて結論に達する。

「何故、そんなに寂しくて哀しいと思って泣くのだ?」

「・・・なんで泣いてるの、」

同じ事を問われた時、蜜琉はわからないと答えた。
でも、本当は?

「・・・だから」

「ん?」

優しく促すように燦然世界が笑う。

「良将ちゃんが、好きだから・・・」

「そういう事だな」

すっと立ち上がって燦然世界が蜜琉の隣に座って、ぽろぽろと泣き出した蜜琉に肩を貸す。

だから、悲しかった。
だから、寂しかった。
だから、哀しかった。

「ほんとに、お前さんらは人の事で心を痛めてばっかりだ。だから自分の事に気がつかんのだ」

しゃくりあげる蜜琉の背中を擦ってとんとん、と優しく叩く。
六月の、泣き出した自分の涙が止まるまでそうしてくれていた良将を思い出して、またしゃくりあげて泣いた。

暫らくして泣くだけ泣いてすっきりした蜜琉が顔を上げて、恥ずかしそうに笑うのを、燦然世界は蜜琉の口にポテトチップスを押し込んで何時ものように笑った。

「泣くと腹が減るからな」

確かに、今日は夕飯も食べていない。思い出したらお腹が鳴って、顔を見合わせて笑った。
燦然世界が米しかない、と言うので二人で並んでおにぎりを作って食べた。
少し歪なおにぎりに手を伸ばしてぱくりと口にしてから、蜜琉が思い出したように口を開く。

「でもねぇ、世界ちゃん」

「なんだ、んむ、塩にぎりも結構いけるな」

「あたし、失恋確実だわ」

「ふむ、甘酸っぱい梅もうま・・・はぁ!?」

言ってから咳き込んだ燦然世界にお茶を渡して蜜琉は少し寂しそうに笑った。

「だって、良将ちゃん好きな人いるもの」

その人と、自分を重ねて見ていたのだから。唇の優しい感触を思い出して頬が赤くなったけれど、自分に向けられたものではないと首をふる。

「あー、死ぬかと・・・あぁ?誤解ではないのか?あれはどうみてもお前さんを・・・」

ふっと考え込んで、燦然世界がニヤリと笑う。

「振り回してやればよいのだ、うむ、そうしろ」

「え?どういう意味よぅ!」

なんでもない、と意味深に笑う燦然世界をおかしな世界ちゃんね!と蜜琉が笑った。

うちの大事な団員を泣かしてくれたのだ、それくらい困った目に合ってもバチは当たらんとぼそりと呟いたのは蜜琉には聞こえないまま。



もしも願いひとつだけ叶うなら
君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ
Beautiful world
迷わず君だけを見つめている
Beautiful boy
自分の美しさ まだ知らないの
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