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【4】 Flavor Of Life 

ありがとう、と君に言われると
なんだかせつない
さようならの後も解けぬ魔法
淡くほろ苦い
The flavor of life





チュンチュン、と鳥の声で目を覚ます。

「ん・・・んー・・・」

パチパチと目を開けると、目に飛び込んできたのは鮮やかな緑の髪。
あぁ、と思い出す。昨日は色々な事があって、まだ胸は苦しいけれど大丈夫だと思いながら立ち上がる。

「うぐぐぐ・・・だめだっ白!それは私の大事な・・・っ!!」

「え、なぁに今の寝言!ちょー気になるんだけど・・・!!」

寝返りを打つ燦然世界にそう答えるが返事はない、随分と盛大な寝言だと蜜琉は笑う。時計を見ると7時前で、昨日のお礼にと少し勝手に冷蔵庫を漁って、お味噌汁と玉子焼きを作ろうと台所に立つ。ご飯は昨日の残りがあったし、簡単だけれど立派な朝食だ。
いい匂いが部屋に漂う頃に燦然世界が体を起こす。

「あーよく寝たー!お、なんだ蜜琉、朝ご飯か!悪いな客なのに!」

「こっちこそー、押しかけちゃったんだからこれくらいはね!」

うふふと笑って二人で朝ご飯を食べて、それからマンションの入り口まで送ってもらう。

「ありがとねぇ、また明日学校で!」

「うむ、また明日な!・・・後な、まぁ大丈夫だとは思うが早く仲直りというかなんというか、まぁそういうのしとけ!気になる事は聞いてやれ、それから、ええい、頑張れ!!」

仁王立ちになって言う燦然世界に少し驚いたような顔をしてから、何時ものように笑って応えた。

「ありがと、管理人さんによろしくねぇ!」

「管理人はバカだからほっとけ!ではな!」

見送る燦然世界に手を振って歩き出す、カフェまでは30分もあるけば着くだろう。
朝日が眩しい中を歩く、目は冷やしたお蔭で腫れも引いたし、今日のカフェの営業には響かないだろう。
軽く鞄を持ち直したその時に、何度も聞いた音楽が鳴って鞄の中で携帯が震えた。
鞄から取り出して、薄い携帯を開く。

From:江間良将

件名:昨日はごめん

========

今日、ちょい早めに
カフェに行ってもい

少し話したいんだ。


========


返信ボタンを押してポチポチと打ちながら歩く。打ち終わって軽く見直して送信ボタンを押すと、また少しだけ胸が痛くなった気がするけれど大丈夫と言い聞かせて歩き出した。

To :江間良将
件名:ううん

========

今外で、20分もしたら
カフェに着くから。
それでもよかったら
待ってて。

========


どうしよう、顔を合わせたら何を言ったらいいのだろう。色々考えてみるけれど、やっぱり何時もの自分のままでいればいいのだと思いなおす。聞きたい事も聞いて、それですっきりすればいい。胸は痛むかもしれないけれど、それでもいいと思った。どうせ傷付くなら相手は他の誰でもない、良将がいいとそう思った。


もう少しでカフェに着く、もう居るだろうかと思いながら歩みを速めた。カフェの玄関が見える距離になると、座って待っている人影があって、蜜琉は軽く走り出した。

「―――朝帰り?」

人影が自分に気がついて少しからかうように笑ってそう言うので、カフェの玄関の鍵を開けながら蜜琉もくすりと笑って答える。

「素敵な人のところに!」

「すてきなひと?」

「世界ちゃん!」

首を少し傾げる良将に、自慢げに笑って言う。つられた様に良将も、それは本当に素敵だと笑ってくれた。カフェの中に入って、改めて向き合う。それから、良将が昨日渡したコンチョのついた輪ゴムをポケットから取り出して蜜琉に渡そうと差し出した。

「・・・これ」

そう言った良将の顔はまだ少しだけ痛そうで差し出された手を軽く押し返す。

「まだもう少しだけ持ってて、ね?」

もう少しだけ、そのまま持っていて欲しかった。お気に入りのひとつだから余計にだ。
良将の目が少しだけ揺れて、何かを悔いるような目をした。

「・・・ひどいことしてごめん」

昨夜の事を謝られているのだと思った。酷い事をしたのは自分もかもしれないのに。触れられたくない場所に触ったのは、我侭を通したのは自分だ。そして、今でもその我侭を通そうとしているのも自分なのだから。
ふるふると首を振りながらチクリとした胸の痛みを隠して言う。

「付いていったのはあたしだもの。だから、いいの」

それから、聞きたくて聞けなかった事を聞いた。

「代わりに聞いてもいい? …何かあったの?」

言いたくなければそれでもいいと思いながら、我侭を口にした。穏やかに良将の目が閉じられて、開かれる。

そうして、ゆっくりと語りだす。蜜琉はそれを聞きながら昨日の事を思い出していた。
深く傷付いた目をしていた男の人、目の前で自分に言葉を捜しながら話をしている人は傷付いた目をしているけれど、自分の知っている良将だと思った。

「・・・ずっとね、オレの男親に惚れてた人でね」

「・・・『ヨシタダ』さん?」

「あれ・・・言ったっけ」

聞き取れなくなった異国の言葉の中で拾うことの出来た名前だった。代わりにはなれないと知っていたと何度も自分を戒めて罰するように言う中で聞き取った名前。きっと漢字で『良将』と書くのだろうとおぼろげに思う。

「昨日ね、その名前を言ってたの」

覚えてないのだと、そう思いながら答える。

そう、その人だと頷いて続きを教えてくれる。それは酷く残酷な話だ。良将にとっても、蜜琉にとっても。それでも目を逸らさずに聞こうと背筋を伸ばした。
聞いていればわかる、良将がその事を辛く思っているのも、同時にその人の事をすごく大事に思っている事も。代わりにされても、その手を離す事ができずにいたのはきっと、好きだからだ。

「良将ちゃんが、すごく大事に想ってる人なのね」

「・・・うん」

胸が締め付けられるような気がしたけれど、ぎゅっと自分の手を握り締めてやり過ごす。傷付いても、それでもいいと思ったのは自分だ。

とつとつと昔のことを話してくれる良将の目はたまに酷く幼く見えたり、自分よりずっと大人びて見えたりした。
魔法使いの話をしたのを覚えているかと言われて頷く。魔法使いになりたかった幼い頃の良将ちゃんの話だと、六月の事を思い出す。
その人に愛されたかった魔法使い。愛されたくて頑張ったけれど、その人にはもう好きな人がいて、魔法は上手く使えない。

――――魔法使いを幸せにしたいのに、あたしでは届かない。

そう思ったらやっぱり少し泣きそうになったから、変な顔をしてしまったかもしれない。

「んで、まあちょっと。いろいろ整理が付かなくってぐるぐるしてたんだけど・・・」

ほんの少しだけ昏い色が見えた気がしたけれど、それは自分にはどうする事もできない気がして何も言えずに蜜琉は頷く。

「オレはここですげェ楽しいから、大事にしようって・・・あのさ、」

不意に腕を伸ばされる、蜜琉は予想外の動きにただ突っ立っているばかりだ。昨日とは違う、優しい抱擁だった。
突然すぎて、思考が追いついてくれない。胸の辺りがぎゅっとなって苦しかったけれど嫌な痛みではなかったから、されるままになる。

「昨日は、取り乱してあんなわけもわかんねーこと言ったけど。今まで重ねたことなんかない、似てるなんて思ったこと一回もねェ、全然違う」

似てるから、重ねた訳ではないのだと。その言葉に少しだけほっとする。それだけで、充分だと思った。

「こっち来てからずっと、オレは店長を見てた」

心配して見ていてくれたのを知ってる、危ないところを助けてくれたのも良将だった。

「店長といるといっつも楽しくて、痛いことなんて何もねェみたいな気がして、でも全部夢みたいな気がして・・・上手く言えねェけど」

うん、楽しかった。一緒に遊びに行くのが楽しくて、誘うのも誘われるのも嬉しくて楽しかった。きっと本当は、秋が来る前には好きだった。気が付かないフリをして逃げていただけだ。

「オレ、店長がいい。最初の頃からずっと、店長がいいなって思ってたんだ」

あたしも、良将ちゃんがいい。でも、好きな人、別にいるでしょう?どうしたらいいのかわからなくなる、頭の中がぐちゃぐちゃになっている気分だ。

「…あなたが、いい。だから、その、」

あたしが、いい?好きな人は?わかんない、わかんないわよぅ。何か言えればいいのに、何も思い浮かばない。

「――――ありがとう、蜜流」

初めて、ちゃんとした発音で名前を呼ばれたと思った。
なんだか嬉しくて、胸の痛いのがどこかにいってしまった気がした。
ゆっくりと口元を骨ばった大きな手が覆っていくのを、ぼんやりと男の人の手だと思いながら見ていた。
ちゅ、と軽い音がして、良将が手の甲に口付けたのだと理解する。理解はしたけれど、どうしたらいいのかわからなくて蜜琉は目をパチパチと瞬いて良将を見ていた。
そんな様子がおかしかったのか、良将が何時もの笑顔を蜜琉に向けて――――

「――――だいすきっ」

あたしも、だいすき。皆と同じ好きでも、それでもいいって思った、けれど。あれ?
わからない、なんだかくらくらする。顔とかなんか熱くてよくわからない。何か言わなくちゃって思ったけど、思考がうまくまとまらない。
混乱する蜜琉をすっと離して良将は開店準備に取りかかろうと動き出す。
なんだか逃げ出したい衝動にかられながら自分の唇を押さえた。

「てんちょ、着替えなくていいのー?」

箒とちりとりを両手に持って、良将が外に出る前に蜜琉にもう一度声を掛ける。その言葉で自分がまだ昨日の普段着のままなのを思い出す。

「あ、うん、ちょっと着替えてくるわねぇ」

耳が熱い、頬を押さえてパタパタと階段を駆け上る。なんか変な汗も掻いてるからシャワーも浴びてしまおう。時計を見ると9時前で、開店までは二時間あったけれどゆっくりもしていられない。
まだこんがらがったままの意識を少しだけ閉じて、心配かけないように普通にしてなくちゃと思いながらバスルームに駆け込んだ。

考えるのは、後にしよう。
今日は日曜日で、お客さんもそこそこ入る。
取り敢えずは帰って来てくれた人がいることを喜ぼう。




どうしたの?と急に聞かれると
ううん、なんでもない
さようならの後に消える笑顔
私らしくない
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